「布団に入っても寝つけない」「夜中に何度も目が覚める」。眠れない夜が続くとつらいものです。この記事では、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」[1]、日本睡眠学会などがまとめた睡眠薬のガイドライン[2]、不眠の治療に関する論文をもとに、眠れない原因として多いものと、薬に頼る前にまず試したいことを整理しました。
まず確認:どれくらい眠ればいい?
「8時間眠れないとダメ」と思い込むと、かえって眠れなくなることがあります。まずは公的な目安を確認しておきましょう。
根拠:強い 厚生労働省の睡眠ガイドは、成人について「適正な睡眠時間には個人差があるが、6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する」ことを推奨しています。研究の知見から、成人ではおおよそ6〜8時間が適正な睡眠時間と考えられるとしています[1]。
参考 同じガイドによると、夜に実際に眠れる時間は年齢とともに短くなり、脳波(脳の電気的な活動)で測った研究では、15歳前後で約8時間、25歳で約7時間、45歳で約6.5時間、65歳で約6時間と、成人後は20年ごとに30分ほど減っていくと紹介されています[1]。
高齢の方については、「眠る時間」よりも「寝床にいる時間(床上時間)」に注意するよう書かれています。
| 対象 | 厚生労働省の睡眠ガイド2023の推奨(要約) |
|---|---|
| 成人 | 個人差はあるが、6時間以上を目安に必要な睡眠時間を確保する。生活習慣や寝室の環境を見直して「睡眠休養感(眠って休めたという感覚)」を高める。不調が続くときは病気が隠れている可能性にも注意する。 |
| 高齢者 | 長い床上時間は健康リスクとなるため、床上時間が8時間以上にならないことを目安にする。日中の長時間の昼寝は避け、活動的に過ごす。 |
根拠:弱い ガイドでは、多くの調査をまとめた解析として、高齢世代では7時間未満の短い睡眠より、8時間以上の長い睡眠のほうが将来の死亡リスクとの関連が大きかった(1.07倍に対して1.33倍)という報告が紹介されています[1]。これは観察研究(生活を調べて比べる研究)のまとめなので、「長く寝床にいることが原因」とまでは言えませんが、「とにかく長く横になる」ことが良いとは限らない、という目安になります。
また、必要な睡眠時間には個人差があり、ガイドも「日中の眠気や睡眠休養感に応じて、各個人に必要な睡眠時間を自ら探る必要がある」としています[1]。昼間に困っていないなら、時間の数字だけで心配しすぎなくてよいかもしれません。
眠れない原因として多いもの
厚生労働省のガイドは、眠りに関する不調には「睡眠環境・生活習慣・嗜好品(コーヒー・お酒・たばこなど)によるもの」と「睡眠障害(睡眠の病気)によるもの」があり、前者は生活の見直しで良くなる可能性がある、と整理しています[1]。まずは生活の中の原因から見ていきます。
1. カフェイン(コーヒー・お茶・エナジードリンク)
参考 ガイドによると、カフェインは1日400mg(ドリップコーヒーでカップ4杯分・約700cc)を超えると夜に眠りにくくなる可能性があり、夕方以降の摂取は睡眠に影響しやすいとされています。日本人では、体内のカフェインが半分になるまでの時間(半減期)が3〜7時間とばらつきがあるため、午後に飲んだ分が寝る時間まで残ることがあります[1]。
根拠:強い ガイドが引用する系統的レビュー(複数の研究を集めて整理したもの)では、カフェインを約107mgより多くとると、寝る約9時間前でも夜の睡眠に影響したと紹介されています[1]。
「夜にコーヒーを飲んでも眠れる」という人もいますが、ガイドは、寝つきに問題がなくても睡眠時間が短くなったり深い眠りが減ったりする人は多い、と注意しています[1]。
2. 寝酒(眠るためのお酒)
参考 お酒は一時的に寝つきを早めますが、眠りの後半の質は大きく下がり、飲む量が増えるほど夜中に目が覚める回数が増えると報告されています。ガイドは「晩酌は控えめにし、寝酒はしない」ことを勧めています。毎日寝酒をしている人が急にやめると眠れなくなることがあるため、週単位で少しずつ減らすか、医療機関で相談しながらやめるとよいとしています[1]。
3. たばこ(ニコチン)
参考 ニコチンには目を覚ます作用があり、寝る前の喫煙は寝つきの悪化や夜中に目覚めることの増加につながるとされています。ニコチンの半減期は約2時間なので、夕方の喫煙でも寝る前まで作用が残ることがあります。加熱式たばこなどでもニコチンを含めば同様と考えられています[1]。
4. 寝る前の強い光・スマホ
参考 眠りをうながすホルモン(メラトニン)は寝る約2時間前から出始めますが、その後に照明やスマートフォンの強い光を浴びるとメラトニンが出にくくなり、寝つきが遅れることが報告されています。ガイドは、寝室にスマートフォンやタブレットを持ち込まず、できるだけ暗くして寝ることを勧めています[1]。
5. 起きる時刻がバラバラ・休日の「寝だめ」
参考 平日の睡眠不足を休日に取り戻そうとして起床時刻が大きく遅れると、体内時計が乱れ、海外旅行の時差ボケに似た状態(社会的時差ボケ)が起こると考えられています。ガイドは、休日に長い睡眠が必要なのは平日の睡眠が足りていないサインだとしています[1]。
6. 長い昼寝・寝床で長く過ごすこと
参考 体が必要とする以上に長く寝床で過ごすと、「寝つくまでに時間がかかる」「夜中に目が覚める」「ぐっすり眠れた感じが減る」など、眠りの質が下がるとされています[1]。「早めに布団に入って少しでも眠ろう」とすることが、かえって逆効果になる場合があるということです。
根拠:弱い 高齢世代では、30分以上の昼寝を習慣にしている人は、昼寝の習慣がない人に比べて将来の死亡リスクが1.27倍だったという報告がガイドで紹介されています(観察研究で、因果関係は断定できません)。長い昼寝や回数の多い昼寝は夜の睡眠の質の低下と関連するとされています[1]。
7. ストレス・考えごと・寝室の環境
参考 眠気がないのに無理に眠ろうとすると、脳の興奮がかえって高まり、寝つけないことを悩んだり、日中の悩みごとを寝床に持ち込んだりして、さらに眠れなくなることがあります。寝室については、暑すぎず寒すぎない温度で、できるだけ静かな環境が良いとされ、夏はエアコンで涼しく保つことが勧められています[1]。
まず試したいこと
ここまでの原因をふまえて、ガイドに書かれている見直しのポイントを、取り組みやすい形にまとめました。すべてを一度にやる必要はなく、できそうなものから始めてみてください。
| 試したいこと | 具体的なやり方(ガイドの内容をもとに) |
|---|---|
| 起きる時刻をそろえる | 休日も平日と大きくずらさない。休日に長く眠りたくなるなら、平日の睡眠時間を見直す |
| 朝の光を浴びる | 起きたら部屋に朝日を入れる。日中もできるだけ日光を浴びる |
| 眠くなってから寝床へ | 寝る前の少なくとも1時間は家事や仕事に追われずリラックスする。眠気が来てから寝床に入る |
| 眠れないときは一度離れる | 寝床で考えごとをしない。眠れないときは寝床を離れ、静かで暗めの安心できる場所で過ごし、眠気が来てから戻る |
| カフェインは夕方以降控える | 1日の合計を減らし、夕方以降はカフェインのない麦茶などに置き換える |
| 寝酒・寝る前のたばこをやめる | 晩酌は控えめに。毎日寝酒をしているなら少しずつ減らす |
| 寝室を暗く・静かに・快適な温度に | スマホを持ち込まない。寝る約1〜2時間前の入浴で体を温めてから寝床に入る |
| 昼寝は短めに | 日中の長時間の昼寝は避ける(高齢者向けの推奨)。目覚ましをかけるなどの工夫を |
参考 寝床にいる時間を見直すために、ガイドはまず1週間、自分の睡眠を記録することを勧めています。ポイントは「寝床にいる時間」と「実際に眠っている時間」を分けて書くこと。高齢世代向けの記述では、寝床にいる時間の目安を「1週間の平均睡眠時間+30分程度」とし、自分で寝床にいる時間を短くする場合は6時間を限度にすることを勧めています[1]。
なお、一晩の睡眠を「取り戻そう」と早く寝床に入るのは逆効果になりやすい、という点が多くの項目に共通しています。
続く不眠には「不眠の認知行動療法」
生活を見直しても眠れない日が続き、昼間の生活に支障が出ているときは「不眠症」の可能性があります。ガイドは不眠症を、眠る機会や環境が整っているのに寝つけない・夜中に何度も起きる・朝早く目が覚めるなどの症状があり、だるさや集中力の低下など日中の生活に支障が出る病気、と説明しています[1]。
不眠症の治療で、薬以外の方法として研究が進んでいるのが不眠の認知行動療法(CBT-I)です。眠れない状態を長引かせる生活習慣や、眠りについての考え方のくせを、専門家と一緒に少しずつ見直していく方法で、「寝床で過ごす時間を調整する」「眠くなってから寝床に入る」といった取り組みや、リラックスの練習などを組み合わせます。
根拠:強い 慢性的な不眠のある成人を対象に、対面で行う認知行動療法を調べたランダム化比較試験20件(1,162人)をまとめたメタ分析では、治療後に次の変化が報告されています[3]。
| 項目 | 治療後の変化(比較対象との差) |
|---|---|
| 寝つくまでの時間 | 約19分短くなった |
| 夜中に目が覚めている時間 | 約26分短くなった |
| 合計の睡眠時間 | 約7.6分長くなった(統計的にはっきりした差ではない) |
| 睡眠効率(寝床にいる時間のうち眠っている割合) | 約9.9ポイント上がった |
この分析では、変化はその後の時点でも続いているように見え、有害な出来事の報告はなかったとされています。ただし、ほかの病気(うつ病や睡眠時無呼吸など)を伴う不眠は対象外だったため、その場合にも同じ結果になるかは分かっていません[3]。
根拠:強い 米国内科学会の診療ガイドラインは、慢性不眠症のすべての成人に、最初の治療として認知行動療法を行うことを推奨しています(強い推奨)[4]。日本の「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」も、認知行動療法の有効性は実証されているとし、最も高い推奨グレード(A)を付けています。患者向けの解説では、合計4〜8回のカウンセリングで寝つきの悪さや夜中の目覚めなどの症状の改善が報告されている、と説明しています[2]。
認知行動療法を受けられる場所は限られるため、まずはかかりつけ医や睡眠を専門に診る医療機関に相談してみてください。
睡眠薬・市販薬に頼る前に知っておきたいこと
睡眠薬は医師が必要と判断して使う治療の選択肢の一つで、使うこと自体が悪いわけではありません。そのうえで、ガイドラインでは次のような点が示されています。
- 根拠:強い 日本のガイドラインは、薬物療法と並行して、できるだけ早い時期から睡眠衛生指導(生活習慣の見直し)や認知行動療法を行うことを推奨しています。漫然と長く処方を続けることは戒められるべきだとしています[2]。
- 根拠:強い 米国内科学会は、認知行動療法だけでうまくいかなかった場合に、薬の短期間の使用について、利点・害・費用を医師と話し合って決める(共有意思決定)ことを推奨しています(弱い推奨)[4]。
- 参考 市販の睡眠改善薬について、日本のガイドラインは「一時的な不眠に使用すること」「不眠症の診断を受けた人は使用しないこと」が原則で、不眠が長引く場合に市販薬で対処することはお勧めできない、と説明しています[2]。
- 参考 不眠をうたうサプリメントについても、同じガイドラインは、質の高い臨床試験で有効性が確かめられたものはごく少なく、安全性の検討もほとんど行われていないとして、不眠症の治療に用いることは推奨しないとしています[2]。
- 参考 厚生労働省のガイドは、治療していない睡眠時無呼吸がある場合、お酒や一部の睡眠薬(ベンゾジアゼピン受容体作動薬)は症状を悪化させる可能性がある、と注意しています[1]。
すでに睡眠薬を飲んでいる方は、自己判断で急にやめたり量を変えたりせず、処方した医師に相談してください。
病気が隠れていることもある
厚生労働省のガイドは、生活を見直しても眠れない・休めた感じがない・日中の眠気が強いといった状態が続き、生活に支障が出ている場合は、睡眠障害が隠れている可能性があるため、速やかに医師に相談するよう勧めています[1]。ガイドで紹介されている代表的なものは次のとおりです。
| 病気 | 特徴(ガイドの説明の要約) |
|---|---|
| 閉塞性睡眠時無呼吸 | 眠っている間に空気の通り道が狭くなり、呼吸が止まったり弱くなったりをくり返す。通常いびきを伴う。夜中に何度も目が覚め、日中の眠気や休めた感じのなさにつながる。肥満が最大の危険因子だが、あごが小さいなど体の特徴でも起こる |
| むずむず脚症候群 | じっとしているときに脚に「むずむず」「虫が這う」ような不快感が出て、動かさずにいられない。夕方から夜に強くなり、寝つきが悪くなる。寝つきの悪い不眠症と間違えられやすい |
| 周期性四肢運動障害 | 眠っている間に脚の筋肉のピクつきがくり返し起こり、夜中に目が覚めやすくなる。本人は気づきにくい |
| 概日リズム睡眠・覚醒障害 | 体内時計のずれで、極端な遅寝遅起き(若い人に多い)や、極端な早寝早起き(高齢者に多い)になる。不眠症と見誤られることがある |
| うつ病などの心の病気 | 不眠はうつ病や不安症の初期症状、または一緒に起こる症状として現れることが多い |
とくに気分の落ち込みが続いている場合は、睡眠だけの問題と考えず、早めに医療機関に相談することが大切です[1]。すぐに受診するのが難しいときは、厚生労働省の働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」[5]で、相談窓口を探すこともできます。
医療機関に相談したい目安
- 生活を見直しても、寝つけない・夜中に目が覚める・朝早く目が覚めるといった状態が続き、日中のだるさ・眠気・集中力の低下などで生活に困っている
- 大きないびきや、眠っている間に呼吸が止まっていると家族などに言われた。十分寝ているはずなのに日中の眠気が強い(運転中の眠気がある場合はとくに早めに)
- 夕方から夜、じっとしていると脚がむずむずして動かしたくなり、眠れない
- 気分の落ち込み、何をしても楽しめない状態、強い不安が続いている
- 毎日寝酒をしないと眠れない、またはお酒をやめると眠れない
- 睡眠薬や市販の睡眠改善薬を使っても眠れない、量が増えてきた、やめられない
相談先は、かかりつけ医、精神科・心療内科、睡眠を専門に診る医療機関などです。死にたい気持ちがあるときは、ためらわずに医療機関や「こころの耳」[5]などの相談窓口に連絡してください。
出典・注意書き
基準日:2026年10月時点
- 厚生労働省(健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会). 健康づくりのための睡眠ガイド2023(令和6年2月). https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
- 厚生労働科学研究班・日本睡眠学会ワーキンググループ. 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン—出口を見据えた不眠医療マニュアル—(2013年6月初版・10月改訂). https://www.jssr.jp/files/guideline/suiminyaku-guideline.pdf
- Trauer JM, et al. Cognitive Behavioral Therapy for Chronic Insomnia: A Systematic Review and Meta-analysis. Ann Intern Med. 2015. PMID: 26054060 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26054060/
- Qaseem A, et al. Management of Chronic Insomnia Disorder in Adults: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians. Ann Intern Med. 2016. PMID: 27136449 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27136449/
- 厚生労働省. こころの耳(働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト). https://kokoro.mhlw.go.jp/
根拠の強さの表示:強い=複数の研究をまとめた分析・診療ガイドライン/中くらい=ランダム化比較試験/弱い=観察研究/参考=公的資料の目安・専門家の意見など。詳しくはこちら
ご注意
- この記事は一般的な健康情報で、診断や治療に代わるものではありません。持病のある方・治療中の方・妊娠中の方は、主治医にご相談ください。
- 睡眠薬などを服用中の方は、自己判断で中止・減量せず、処方した医師に相談してください。
- 必要な睡眠時間には個人差があります。この記事の目安がすべての人に当てはまるとは限りません。
- 日本の睡眠薬ガイドライン(2013年)は作成から年数がたっています。最新の治療については医療機関でご確認ください。